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「自分から主体的につながりをつくる」 川口耕介氏講演あり クリエーションライン社「Engineering All Hands」開催レポート

2023年10月6日(金)
望月 香里(もちづき・かおり)

さる7月20日(木)、クリエーションライン株式会社に所属するエンジニア向けの社内セミナー「Engineering All Hands」が神奈川県・三浦海岸のマホロバ・マインズ三浦で開催された。セミナーの冒頭では「お互いに高め合う文化の形成、CLビジョンの実現に向け、知識や想いを結集していきたい。世界トップレベルのエンジニアと直接会い、学ぶ喜び・成長する楽しみを感じ、社会的なイノベーションを共に創っていきたい」と、同社CTOの荒井康宏氏による、本イベントの経緯説明があった。

イベント開催に先立ち、荒井氏による開会宣言があった

荒井氏は、目指して欲しいエンジニア像を「顧客の課題を解決するプロフェッショナル」だと告げた。プロフェッショナルの要素として、1つは技術に詳しいだけでなく、その技術を使って世の中を進化させ、お客様の役に立つことに価値をもたらすこと。もう1つは、既存の手法やツールに固執することなく、何を使えば最適に、お客様や社会の課題解決をしていけるか考えること」だ。

昨今のChatGPTやAIの技術革新著しい中、エンジニアとして、この時代・この社会にどういった価値を提供できるか。

クリエーションラインのビジョン「『IT技術によるイノベーションにより顧客とともに社会の進化を実現する』の達成に向け、本イベントが1人1人の課題解決能力向上のため仲間同士熱い想いを語り、会社全体として、この時代・この社会にどういった価値を提供できるか、新たなシナジーが生まれるきっかけになれば嬉しい」と語り、開会宣言とした。

川口氏によるキーノート
きっかけは「おもしろそう」

続いては、米Jenkins開発者 兼 クリエーションライン技術顧問の川口耕介氏による特別講演キーノートセッション「学ぶ力について思うこと」があった。「私のキャリアのたどり方は非常にユニークだが、何かの参考になれば嬉しい」と講演は始まった。

米Jenkins開発者 兼 クリエーションライン技術顧問 川口耕介氏

川口氏は中学生の頃、家にあるコンピューターでゲームを作ることが楽しかったいう。当時、ワイヤーフレームで3Dの画像を計算して作ることができると本で知り「そんなことができるのか」「これはおもしろそうだ」と三角関数などを一生懸命勉強した。

「アウトプット」が新たな扉のカギ

パソコン通信という、今でいうインターネット掲示板があり、プロでソフトウェアを書いている大人たちがたくさんいた。シェアウェア(いまでいうiPhoneのアプリ制作)で、自作のソフトウェアを1本300〜500円で売る仕組みがあり、自分でソフトウェアを作って売り始めるとユーザーの反応がおもしろく、プログラムを改善することが楽しみになった。当時、高校生だった川口は、シェアウェア作者の大人達と出会い刺激を受けたという。

そして、大学に入ったタイミングで、人とパソコンがあれば起業できると、友達と会社を作った。半分は受託開発。もう半分はソフトウェアの自社開発をしていたが、売り方を全く知らなかったため全然売れず、会社経営は鳴かず飛ばずだった。

当時流行っていたXMLについて卒業論文を書き、発表先の大阪で、長年富士ゼロックスで文字コードの標準化をしていた村田 真氏と出会う。W3CというHTMLを作っていた団体がXMLのスキーマ言語を標準化しようとしていたが、村田氏はIBM、オラクル、Microsoftなどが建設中のデススターの技術的未熟さが気に食わないと言っていた。計算機科学に基づき、技術的にきれいなだけでなく、どうやって標準化の世界で活用していけるか。それを熟知していた村田氏は、MicrosoftやIBMと取引をしているお客さんに、自作のソフトウェアを売り込んでいて、間近で見られたことが、非常に刺激になった。

また、川口氏自身もHTMLのパイロット版(オープンソースのプロジェクト)を1個作り、自分が書いたものを公開していた。あるとき、村田氏が作ったものをアメリカのサン・マイクロシステムズの人に見せると「弊社でやってほしい」と言われ、これが渡米のきっかけとなった。「これが仕事につながるから」と思ってやっていたわけではなく、ただ「おもしろそうだったから、あまり後先考えずやっていたら仕事になり、海外からのジョブオファーに繋がった」と川口氏は振り返る。

「こだわり」もいい塩梅に

当時のサン・マイクロシステムズは、今でいうGAFAのような、技術者にとって栄光の地だった。XML関係のプログラムを、人生で一番書いていたと思う。若くて未熟だったが「美しいものがこれ」と自分なりのこだわりをもっていた。

上空から見た、米国のサン・マイクロシステムズ

川口氏には「いまだに覚えていることがある」という。夏休みに2ちゃんねるを覗いてみると、高校生のときに流行り、発売日には学校を休んでまで買いに行ったほど大好きだった「A列車で行こう」がオープンソースプロジェクトで作られていることを発見した。すると、どこかの中学生がVBScriptか何かで書いたプログラムだった。「これではだめだ、プロの仕事を見せてやる」と、いま思えばその中学生には非常にかわいそうなことをしたが、「私だったらこう書く」という気持ちは、ものを作る上で大事。アウトプットすることで、フィードバックがモチベーションや刺激に繋がる。試行錯誤を繰り返す中で、ソフトウェアを書くことにだんだん自信を深めていった。

エンジニアリングの「合目的」

以前は、懸垂曲線のようにどの部分を取っても無理な力が掛かっていないものや、レゴの部品のように個々の構成要素をきれいに切り離したときに単体で見ても理解できるものが美しいプログラムだと思っていたが、今は、誰がやってもより作業しやすいものが良いと、自分の意見も変わってきたという。

また、「こだわり過ぎ」も弊害になることがある。1つは、自分がこだわっていることがお客さんの価値につながっているか、真摯に自問自答する必要がある。例えば、サン・マイクロシステムズではライブラリの美しさが追及され、1回出荷したものは2度と変更できないため、入念にいろいろな方向から検討し、最善のものができるまで納期が6カ月延びても構わないこともあった。エンジニアリングは「合目的かどうかが最後の判断」。現在、JenkinsではSaaSやWebアプリを作っているが、気に入らなかったら変えていく。デザインを美しくしようと事前にこだわりすぎるのは合目的でない。ソフトウェアを美しくしようとこだわりすぎると、エンジニアリングは失敗になってしまうこともある。

サン・マイクロシステムズには、Javaの生みの親ジェームズ・ゴスリン、viテキストエディタを開発したビル・ジョイ、XMLのジョン・ボサック、Javaの普及に尽力したマーク・ラインホルドなど、超絶エンジニアがたくさんいたが、会社に求められているエンジニア像とは違い、彼らは出世していなかった。そこで、川口氏はシニアエンジニアの仕事へとキャリアチェンジしていった。

サン・マイクロシステムズの超絶エンジニアたち

「主体的に動ける」オープンソース型へ

初めに行ったプロジェクトは、プラグインベースのシステム、Jenkins(オープンソースの参加者が器の上にCIシステムを作る)だ。川口氏自身は直接CIシステムを作っていないが、ベースとなる器をどのような形にするか、その上にどういうものが盛れるかを設計した。1人の仕事が数百人のコントリビューターの仕事に影響を及ぼすことができる仕組みがおもしろいと思っているという。

伸びるエンジニアを生かすには、個々のこだわりが貫けるよう、自主性とやる気を損なわないよう、多くの人の仕事を規定することがポイントだと語る。

視野は広くチャンスを掴む

もう1つ、Jenkinsのプロジェクトでおもしろかったのは、Jep(Jenkins Enhancement Process)のプロセスを作ったことだ。このプロジェクトは10年ほどやっており、老練で古参のメンバーが何人かいた。それぞれのプラグインは自分流にできるが、横断的な変化を作るのは難しかった。大きな変更の提案、合意形成の手順をより明確化することで、いろいろな人がアイデアを持ち寄れるようにした。

良かったことは、プラグインを作るシステムと同じように、プラグインを簡単に書けるようにしたことで、プラグインを書く人が増えたことだ。組織をうまく回すためには、自分にとってではなく、ほかの人にとって何が障害になっているかを考えることが大事。様々な人に会いに行き、話を真摯に聞いて問題解決することがシニアエンジニアとして大事なスキルだという。

そんな風にJenkinsを楽しく作っていたが、ある日サン・マイクロシステムズは二束三文でオラクルに買収されてしまった。ファイルシステムを1本書いて20年というキャリアだけでは自分のスキルが転用できないと思い、スタートアップと言えば聞こえは良いが独立した。

その頃、CloudBeesの創業者であるサーシャ・ラブレーに出会い、エンジニアリングのこと以外は本当に何も分かっていなかった川口氏は、スタートアップの作り方やお金の集め方など、一緒に体感できたと振り返る。

スタートアップに関わり5年。何が得られるかが事前に分かるようなものに、大事なものはほとんどない。やってみないと分からない側面がある。信じて飛び込んでみることが学びの本質だと思っていると語った。

「物語」と「熱量」で拡散

川口氏はCloudBeesでCTOとなり、エンジニアリングを統括する中で他職種の人と話す機会がたくさん増え、マーケティングやセールス、HR、プロダクトマネジメントなど、あらゆる道にプロがいることを知ったという。特にスタートアップはエンジニア以外の人と話す機会が多く、バックエンドからの視点や問題意識が違う人と対話するため、相手の視点を理解する必要がある。

マネージャーが部下のインセンティブやゴールをコントロールする手法はたくさんあるが、シニアエンジニアに部下はいない。個々のエンジニアが、それぞれの問題解決に当たってどのようにコードを書き設計するか、なかなか口を挟みづらい。そんなとき、Potcastを聞いていて物語を語ることの重要性を感じた。現場(お客さん・ユーザー)の問題解決を物語として生き生きと書いてみたところ、それぞれの方法で問題解決していくことを実体験したという。

多くの人にものを伝えるには「文章を書くこと」「熱い熱量と情熱で対面で説得すること」だと指摘する川口氏。CloudBeesのエンジニアは世界中に散らばっていたため、自身も文章を書くことを選んだと語る。

「鶏口となるも牛後となるなかれ」

CloudBeesでは様々な学びがあった。経営とプロダクトのチームをドライブしてみたかったという川口氏は、3年前に自分自身のスタートアップLaunchableを始めた。

Launchable

エンジニアにとって大事なスキルは、プロダクトオーナーのふわっとしたニュアンスを対話をしながら数値化し、現実的な解を作って認識の共有と安心を作ること。Launchableではシニアエンジニアに期待することを言語化し、成長の道しるべを作っているという。今のスキルレベルとの差について話す機会も設けている。

最後に「新しいことや未知のものに興味を持つ謙虚さを持ち、とにかく繰り返し行動することで、どこかにたどり着くことを信じ、歩んでいってほしい」と呼びかけた川口氏。

「学びは自己研鑽の仕方を学ぶこと。正に今日のOST(オープン・スペース・テクノロジー)は自分から興味を持って参加し、アウトプットする機会があるので、学びのPDCAサイクルのプロセスが全部が詰まっている」と講演を締めくくった。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
元保育士。現ベビーシッターとライターのフリーランス。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。今は、当たり前のようで当たり前でない日常、暮らしに興味がある。
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